さぽろぐ

読書・コミック  |札幌市北区

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2015年03月26日

晩夏 今野敏著 角川春樹事務所

 東京湾臨海署安積班の安積係長を主人公とするシリーズの警察小説である。
 話は単純であるが登場人物が良く描かれていて、読んで退屈しない。
 ここでは警察同期の速水小隊長がユニークだ。恐らくこんな警察官は日本にはいないと思うので、面白い。捜査一課の新人矢口と言う刑事も
エリート風を吹かせるが実は小心者と言う設定も面白い。こちらはいかにも刑事にありがちな人物としてよく描かれている。
   


Posted by 北のフクロウ at 11:15Comments(0)読書

2015年03月26日

戦記小説集 五味川純平著 文芸春秋

 五味川純平と言えば、「人間の条件」で有名で、図書館で借りようと思ったが、見当たらなかった。代わりに借りたのがこの本だ。
 満州で日本軍が負けて、ロシアに追われて、捕虜となり苦労するところは「人間の条件」の背景と同じである。
 そこで批判されるのは日本政府、日本軍の上層部の卑劣さ、戦略のなさ、無謀、おかしな精神主義等といったことに対する一銭5厘の召集令状で出兵した下層軍人の無念が良く出ている。
 戦争の悲惨さは語っても語りきれないが、それが時間とともに風化し、今日本が右傾化し、昔の富国強兵路線に向かおうとしている。
 それを風化させないためにも、文学の力は必要であろう。  


Posted by 北のフクロウ at 11:04Comments(0)読書

2015年03月24日

フランチェスコの暗号 イアン・コールドウエル、ダスティン・トマソン著 新潮

 ウンベルト・ウーコとダン・ブラウン、そしてフィッツジェラルドが手を組んで小説を書いたら、このフランチェスコの暗号になるだろう、という記述があとがきにあるが、まさしく青春小説「ヒュブロネロトマキア」と暗号と歴史が噛み合った複雑な小説であり、青春小説の部分がやや饒舌である。私の好みから言えば歴史と暗号、まさにダン・ブラウンの世界に絞り込んだ方がまとまった小説になったであろう。
 とはいえ、「ヒュブロネロトマキア」なる書物(これは実在するという)から、ここまで想像力をたくましくした作者二人は只物でない。
 一人は医者、一人は歴史専攻と言うから、面白い組み合わせであり、小説が複雑化したことも納得できる。
 歴史と言えば、サボナローラと「ヒュブロネロトマキア」の作者といわれるフランチェスコ・コロンナとの確執が宗教の狂信者と人文主義者との争いととらえたところが、いちばん面白かった。
 宗教と歴史と暗号というテーマがミステリーの一つの潮流になっているように思われる。  


Posted by 北のフクロウ at 19:17Comments(0)読書

2015年03月19日

ロマノフの十字架 ロバート・マセロ著 竹書房文庫

 ロマノフとは言わずと知れたロシアの王朝。ロマノフ朝最後のニコライ2世の皇女アナスタシャが登上する。アナスタシャが持っていた十字架は実はラスプーチンが皇女に与えたものと言う設定で、歴史的な出来事が下地にある。
 これとスペイン風邪、実は世界中で5千万人が犠牲者になった悪質なインフルエンザであったことが知られている。日本でもこれにより40万人が亡くなっているという。このスペイン風邪ウイルスがもしも生きていたとしたら、という想定のもとにアラスカを襲ったパンデミックが描かれ、その原因がアナスタシャが持ち込んだものという想定がなされている。
 アナスタシャというとイングリッド・バーグマン主演の「追想」と言う映画を思い出す。といえば年齢が分かるというものだ。
 今の人はアニメの「アナスタシャ」の主人公を思い出すだろう。これはみていないが、皇女アナスタシャは悲劇の主人公の要素を持っている。
 歴史とパンデミックを組み合わせたユニークな作品で、楽しめた。  


Posted by 北のフクロウ at 09:07Comments(0)読書

2015年03月19日

天国の囚人 カルロス・ルイス・サフオン著 集英社文庫

 サフォンの「風の影」4部作の3作目。前作「天使のゲーム」で出てきた「センペーレと息子」書店のセンペーレの孫ダニエルが主人公の一人。それよりも店員のフェルミンが数奇な体験をし、こちらが主役か。フエルミンはフランコ政権下で、捕らえられ、監獄に収監されるがそこで会ったのが、前作の主人公であったダビット・マルチンで、彼の助けで脱獄に成功する。ヂュマの「モンテクリスト伯」{日本では「岩窟王」の名で知られる。)を彷彿とさせる脱獄劇だ。
 ダニエルの母、イサベッラの死にかかわる監獄長マウリシオ・バルスの存在が次作の展開を示唆している。
 いずれにせよ、第4作を読まないことには、落ち着かない。作者の術中にはまったか。
   


Posted by 北のフクロウ at 08:50Comments(0)読書

2015年03月08日

満州国演義 船戸与一著 新潮社

 満洲国演義はおそらく船戸与一の代表作となるものであろう。九巻まで書かれていて、一作目、三作目を読んだ。
 主人公が敷島四兄弟で、太郎、次郎、三郎、四郎と安易に命名している。長男が外交官、次郎が満州浪人、三郎が軍人、四郎が無政府主義者と性格の異なる四人を出し、満州事変、上海事変から満州における日本と、シナとの関わりを多面的に書いている。そこは船戸ワールドなのでオドロオドロしい描写に度肝を抜かれるが、歴史を見る目は狂っていないように思う。
 なぜ日本が満州に進出したか、明らかに侵略であり、軍部の暴走であり、今考えると狂っているとしか思えないが、当時の風潮は満州に侵略をしなければならないほど、日本経済、社会が追いつめられていたことがうかがわれる。
 昨今天皇陛下が満州事変以降の歴史に触れられたが、侵略の歴史を忘れてはいけないというメッセージであろう。
 安倍首相が何を目指しているかは定かでないが、戦前の富国強兵路線を考えているとすれば、時代錯誤も甚だしいと言わざるを得ない。
 ただこの小説を九巻まで読みとおす自信がない。このような狂気に陥った時代を正視出来るかどうか自信がない。  


Posted by 北のフクロウ at 13:16Comments(0)読書

2015年03月08日

天竺熱風録 田中芳樹著 新潮社

 作家にとって、あまり歴史に詳述されない人物というのは、創造性が発揮できて書いていて楽しいもののようだ。
 主人公の王玄策という人物も唐の時代、長安からインドへ三度渡った、という快挙を成し遂げている。
 二度目の遠征で、マカダ国の暴君の7万人の戦象軍団を6千人のネパール、チベット軍によって打ち破るという快挙を成し遂げた。
 恐らく同行した学僧が経典を持ち帰っていたら、玄奘三蔵を超える歴史上の記録となったであろうが、海路帰国途中で学僧が遭難したために歴史上には残っていない。本人は陸上で帰国したために、天寿を全うしたようだ。
 この小説の語り口がよい。紙芝居を見ているような、文体はあとがきで作者が行っているように擬講釈文とでもいうべきもので、読んでいて楽しい。  


Posted by 北のフクロウ at 12:58Comments(0)読書