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読書・コミック  |札幌市北区

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2019年06月28日

浴室には誰もいない コリン・ワトソン著 創元推理文庫

 ユーモアミステリーというジャンルに属する小説だそうだ。ミステリーにはユーモアは似合わないと思うが、コリン・ワトソンという作家はその分野の作家らしい。
 浴室が殺人現場と思われる事件が発生するが、死者の姿が無い。どうやら死体は浴室で硫酸に溶かされたらしい。オドロオドロしい話だが、そこはユーモアミステリーで、凄惨さを感じさせない。そこが取柄の作品といえる。
 ユーモアミステリーに①主人公のエキセントリックな性格②不条理な場面設定の二つのパターンがあるというが、この作品は後者であろう。
 主人公の警部はまじめな警官でさほど個性が強くない。状況が凄惨な事件であるにもかかわらず、凄惨さを感じさせないほど、まわりの展開がユーモラスである。
 暇つぶしとしてはよいが、ミステリーとしては物足りない作品である。  


Posted by 北のフクロウ at 08:46Comments(0)読書

2019年06月25日

イスラム最終戦争 マーク・グリーニー著 新潮社文庫

 トム・クランシーが創出したジャック・ライアンシリーズはトム・クランシー死後マーク・グリーニーが後をついでいるが、その最新作である。
 残念ながら、グリーニーの作品はこれが最後で、後は別の作家が作り続けるという。主人公もジャック・ライアンが大統領になった後は、息子のジャック・ライアンジュニアがあとを継ぎ、何時終わるとも知れない。
 さて、最新作はイスラム国(IS)が相手であり、しかもISがシリアで拠点を失った後、テロリストがアメリカ国内で諜報員や軍関係者をターゲットに活動する。その情報をルーマニアの情報会社の社員がテロリストに流す。その背景にイスラム教のスンニ派国家とシーア派国家の争いがあって、サウジアラビアが石油価格の高騰を狙って、アメリカの力を借りてイランを押さえ込もうとする。
 ときあたかもアメリカ・イランが一触即発の状況にあって、日本のタンカーを襲った勢力がイラン革命軍であるかどうか、はたまたアメリカの無人偵察機がイラン軍に打ち落とされたが、イラン領空であったかどうか、きな臭い。
 タンカーを襲ったのがサウジアラビアではないか、という説もあるようで、あながちこの小説のような理由も否定できない。
 
 こういう小説を読むと、テロリストにアメリカ攻撃策を教えているような気がしてならない。
 9.11のテロもトム・クランシーの小説にそれを示唆する場面があったことが想起させる。  


Posted by 北のフクロウ at 17:57Comments(0)読書

2019年06月24日

一瞬の光のなかで ロバート・ゴダード著 扶桑社ミステリー

 読んで後味の悪いミステリーである。
 主人公のカメラマンが自動車事故でザザビーの写真鑑定人であった女性を交通事故で死なせてしまう。
 犯人がその報復としてカメラマンの人生をめちゃくちゃにしようとする復讐劇である。その結末が悲惨であり、悲劇的な結末になる。犯人も事業破綻により自殺する。
 伏線になる写真の歴史にまつわる物語は非常に興味深い。その物語を話す謎の女が二重人格となり現実と過去を行き来する。そのあたりは幻想的で、ミステリアスである。種明かしされるとがっかりであるが、物語としては良くできている。
 結局主人公が探し回っていた謎の女性は、最後まで姿を見せなかった。姿を現していたならば、少しは救いになったのだが・・・・。
  


Posted by 北のフクロウ at 08:41Comments(0)読書

2019年06月21日

日輪の果て ロバート・ゴダード著 文春文庫

 著者「蒼穹のかなたへ」の主人公であったハリー・バーネットが再登場したゴダードとしては珍しい作品。この主人公は3作目の「還らざる日々」にも登場するから、よほど著者にとって忘れがたい人物なのであろう。
 前作では事業に失敗してロードス島の別荘の管理人をやっていたが、給油所のパートタイマーをやっているダメ男である。
 今作では若気の至りの情事でできた隠し子が現れて、しかもインシュリンの過剰摂取でこん睡状態になっている。その事件の原因を追究するというのがこの小説のテーマである。
 この子供というのがとんでもない数学の天才で、高次元の世界を予知する数学的解を得られたようなのだ。しかし人類の未来を予知した結果が何であるかはここでは語られていない。それを知っていた犯人が予防的に殺人を犯した事件ともいえる。
 人類がどこに向かうかという点ではダン・ブラウンの「オリジン」とも共通するテーマであろう。
  


Posted by 北のフクロウ at 09:00Comments(0)読書

2019年06月11日

遠い山なみの光 カズオ・イシグロ著 早川書房

 ノーベル賞受賞作家の作品である。
 なぜ彼が受賞したかがよく分からない。少なくともこの作品を読む限りまったく何を言いたいのかよく分からない。
 主人公が最初の結婚のときに経験した長崎の母子の不可解な行動と、再婚してイギリスで住む中で娘の自殺を経験して、人生の不安定さを描いているようだ。解説を見ると「人間は互いに了解可能だという前提から出発するのが哲学であり、人間はやはりわかりあえないという結論に向かうのが文学である。」という考え方を表現しているのがこの小説であるという。だから読んでも理解できないのは当然ということになる。長崎でであった母子、特にアメリカに行きたいという願望で、現実性の無い生活をしている母親と女性の幻想にとらわれる女の子の言動はまったく理解しがたい。それが結婚が破綻してイギリス人と結婚した主人公の経緯が分からないし、長女の自殺との関わりも説明が出来ていない。その不確定さ、説明の無さがこの小説のテーマであるとすれば、読者が納得できないであろう。
 なぜイシグロ氏がノーベル賞を受賞したのか、もう少し読まないと納得できないだろう。  


Posted by 北のフクロウ at 21:22Comments(0)読書

2019年06月07日

秘められた伝言 ロバート・ゴダード著 講談社文庫

 歴史的史実としてはケネディの暗殺、大列車強盗が1963年にあった。
 これを背景として、ゴダード得意の複雑な家族関係がからんだミステリー。
 親友が行方不明になり、捜索を頼まれる。手がかりは限られているが、かすかな情報から、ベルリン、東京、サンフランシスコと探し回るが、その過程でなにやら重大な手紙の存在が分かり、それをめぐって殺人事件が起きる。
 最後はお決まりのあっと驚く真相と、ゴダードマジックにはまり込んで最後まで読み通した。
 ミステリーの決まりごととして、ネタを明かすことは出来ないが、ゴダードミステリーのいくつかのパターンが分かりかけてきた。それにはまり込むとなかなか逃れることが出来なくなる。20年間に16冊というペースで作品を出しているそうだが、旺盛な創作意欲に感心する。
 この作品では東京、京都が舞台になっており、同志社大学の非常勤講師という人物も出てくる。そういう意味で親しみの持てる作品だ。  


Posted by 北のフクロウ at 12:38Comments(0)読書

2019年06月02日

還らざる日々 ロバート・ゴダード著 講談社文庫

 「蒼穹のかなたへ」の主人公であったケリーがまた登場した。
 彼が空軍で2年間過ごした中で、クリーン・シート作戦なるものに、従事した。空軍で問題のあった兵士を集めてスコットランドの城で再教育プログラムを受ける。その後50年ほどして、仲間に招集がかかり、同窓会が計画される。ケリーも
たまたま母親の葬儀に帰国していて、その同窓会に出席する羽目になる。しかし出席するために乗った車中で、同行した仲間の一人が列車から墜落し死亡する。また同窓海中に事故で、仲間の一人が交通事故死する。その死亡事故ではケリーが犯人の疑いを持たれ、真犯人を探し身の潔白を空軍仲間で、かって経営していた自動車修理工場のパートナーであった友人とともに証明せざるを得なくなる。
 果たして、犯人は誰か。彼らが受けたクリーン・シート作戦なるものは何だったのか?このミステリーの解明がこの小説のポイントである。
 この作品は2008年に翻訳され、同じケリーを主人公とするシリーズの第3作目にあたるという。第2作目「日輪の果て」を読み飛ばしてしまった。ゴダードの愛する主人公であり、無視するわけにはいかないであろう。
 2008年にもなると、ゴダードの以前の作品とはだいぶ異なり、ストーリーの展開が早くなった。昔の重厚な作品と大分様相が異なってきた。
 テンポのよさは今の作品のほうが好みに合っているが、恐らく作品の評価は初期のほうが高いのではないか。  


Posted by 北のフクロウ at 19:54Comments(0)読書