光圀伝 冲方丁著 角川書店

北のフクロウ

2019年12月31日 09:11

 著者は「天地明察」で暦の変更に貢献した安井算哲を主人公に小説を書いた。そこには主人公を助ける幕府の重鎮の一人として水戸光圀を登場させている。今度はその光圀を主人公に小説を書いた。この光圀は水戸黄門として、知られているがテレビの主人公とは違い、助さん、格さんを供に連れて諸国漫遊するわけではない。「大日本史」を編纂した漢詩や和歌、史書に通じた文人としての姿が描かれている。
 ご三家の盗取でありながら、なぜ父が三男である自分を世主(世継ぎ)としたかに悩む。長男が早世し、次男がいたのにも関わらず、三男の自分がという疑問である。大名の後継者問題は今と違って、大変だったことがわかる。儒教に詳しい光圀が考え出した結論が次男の子供を世主として貰い受け、義を果たすというもの。さらには密かに産ませた子供が次男の世主となるという交換トレードまでやってのける。今の時代では考えられないことが行われていた。さらには光圀を将軍にしようと画策した家来を自らの手で殺すということまでやっている。
 この小説の救いは、公家の家から嫁してきた嫁の泰姫と、林羅山の子供の読耕斎の存在で、神殿交換トレードは泰姫の提案だったことが示唆される。この二人を早く失ったことが、人生の無常を強く訴える。

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