ブラックアウト マルク・エルスブルグ著 角川文庫

北のフクロウ

2013年01月31日 21:07

 無政府主義者のサイバーテロがEUの電力会社を襲うことにより、ヨーロッパがブラックアウトになる。電気がなくなったとき文明はいかにもろいものであるかということを執拗に描く。これを防ぐのは元ハッカーのイタリア人。彼自身ジュノアのデモで当局に逮捕された経歴を持つ。スマート電力計の発達しているイタリアとスェーデンから停電が起こる。それに疑問を感じた主人公がいろいろの困難に遭遇しながらアメリカ人ジャーナリストやスェーデン人の恋人などの力を得て解決するが、その間原発が爆発するは、水力発電所は表示がおかしくなり停機するは、食糧がなくなり暴動化するは、囚人は脱走するは、で、社会が大混乱をきたす。明らかに福島原発事故を踏まえ、それをヨーロッパに敷衍して、物語を構成している。首相の怒る様など管首相の言葉をそのまま使ったかと思われるほどだ。現代文明はかくのごとくもろいものだということはよくわかるが、怖れるのはこの手法を狂信的なイスラムテロリストが真似て、キリスト教文明の壊滅を計画しないかということだ。小説家の想像力が、テロリストの行動力と結びつくことを恐れる。かくいうほどに現代文明は危うい基盤の上に立っているということか。小説はあまりに多くの場面を時系列的に細切れに描いているので、ついていくのが大変であるが、読み終わるといろいろ考えさせられる。

関連記事